近年の脳科学の進歩に伴い、神経軸索障害部の環境さえ良ければ、中枢神経系においても再生する系があることがわかってきている。中枢神経再生のためには、損傷の影響を最小限に抑え、「脳を守る」ことと共に、もう一つの治療戦略である「神経移植」と、「脳を守る治療」を融合することで、急性期の過剰な反応を抑え神経細胞を保護し、望みうる最良の状態で早期に移植ができるようにすることが望ましい。以前から聴覚中枢の機能局在について、特に両耳機能との関連で中脳レベル以下の脳幹部聴覚中枢について検討してきたが、今回DNLLから下丘などへの交差性求心性投射路である、プロブスト交連切断モデルおよび、脳幹内顔面神経軸索切断モデルにおいて、抗酸化薬剤投与が起始ニューロンの神経細胞死を抑制する効果があるかについて検討した。 まずプロブスト交連と顔面神経末梢軸索の切断結果を比較したところ、プロブスト交連障害後には顔面神経末梢軸索障害後に比べて、NOSの発現は時間的に早く発現しており、NOSの発現機序や働きの面で両者の間では違いがあることが示唆された。 通常の臨床で使用可能な薬剤であるTJ-23のフリーラジカル消去(抑制)作用に着目し、顔面神経末梢切断モデルおよび、顔面神経引き抜き障害モデルにおいて、TJ-23の効果を検討したところ、神経障害後に発現するNOSの発現をTJ-23は強く抑制すると共に、神経細胞の変性・細胞死を抑制する傾向が認められた。またステロイドや強い抗酸化力をもつビタミンEによっても同様にフリーラジカルの発現が抑制され、特にビタミンE投与群では神経細胞の生存率が著明に改善した。 またより強い起始ニューロン変性が励起される脳幹内顔面神経障害モデルでは、エリスロポエチン、TJ-23投与群において長期的には起始ニューロンの細胞死は免れないものの、障害後2週間程度の亜急性期までは神経細胞の延命効果が認められた。
|