めまいを訴えて耳鼻咽喉科に受診する患者のなかに、Visual vertigo syndrome(視覚誘発性めまい症候群)が存在する。まず、Visual Vertigo Syndrome症例15名の臨床的検討を行った。男性9名、女性6名、25歳から69歳、平均43歳であった。訴えるめまいは浮動性めまいが大部分で、5例では動きの速いテレビ画面を見る時やコンピューター画面をスクロールすることでもめまいが誘発され、4例では車の運転中(トンネル内や高速道路、あるいは追い越される時)にめまいが誘発され、4例では特定のパターンの景色の所を歩く時、2例はデパートや地下街の人ごみの中を歩く時にめまいが誘発される。このように、特定の頭位や頭位変換あるいは動作ではなく特徴的な視覚刺激によりめまい発症し、主に周辺視野が刺激されるoptical flow刺激が中心であると考えられた。しかし、従来の平衡機能検査では、明らかな異常を認めない症例が多く、一定の傾向は認めなかった。 以上の結果から、Visual Vertigo Syndrome症例では姿勢制御の動的な視覚依存性が高まっているとの作業仮説を立て、その評価法を開発した。定量的な視覚刺激を与えるために、被験者の前方、上方、左右の4面を被うパネルを組み立て、さらにその周辺に組んだ枠組みの中に上方よりワイヤーで吊るした。パネルの内面にはストライプパターンを貼り付け、それを手動で前後に動かすことで、周辺視野の動的視覚刺激を与えた。被験者は重心動揺計のプラットホームの上にロンベルグ姿勢で起立させ、開眼で動的視覚刺激の有無で60秒間の重心の軌跡長を測定し、その比(刺激開眼/開眼比)を求めた。さらに、動的視覚刺激のない条件下で、開眼と閉眼の重心の軌跡長の比(閉眼/開眼比、ロンベルグ率)を求めた。健常人16名で検討すると、ロンベルグ率は1.8±0.2、刺激開眼/開眼比は0.5±0.3であった。次年度はVisual Vertigo Syndrome症例に検査を行う予定である。
|