研究概要 |
1)パッチクランプ法を用いて内リンパ嚢上皮細胞のイオンチャンネルの性質を調べた。single channel recordingにてイオン電流を測定し、細胞内カルシウム濃度の変化をFura-2 ratiometryにて測定した。材料として白色モルモットから単離した内リンパ嚢上皮細胞を使用した。Non-selective cation channelが同定された。Ion permeability ratioはP Na/P Kは0.94、P Cl/P Kは0.13、P Ca/P Kは0.49であった。このチャンネルの活性は細胞内のカルシウム濃度に依存しており、cell-attached patchにて0.6-10μMで活性化された。このチャンネルは細胞外ATPにより活性化された。細胞外ATPは細胞内のカルシウム濃度の上昇をもたらし、それによりチャンネルの活性化が起こることを明らかにした。内リンパ嚢内リンパは蝸牛、前庭・半規管の内リンパとは異なり、ナトリウム濃度がカリウム濃度より高いため、内リンパ嚢内リンパの恒常性維持にナトリウム輸送が重要であると考えられているが、今回、同定できたチャンネルが内リンパ嚢におけるナトリウム輸送に重要な働きをしており、ATPがこのチャンネルを介して内リンパ嚢におけるナトリウム輸送を制御していることが考えられる。 2)イメージング手法を用いて内リンパ嚢におけるナトリウム輸送の動態を調べた。材料として白色モルモットから採取した内リンパ嚢中間部上皮細胞ならびにシート状の細胞組織を用い、SFBI/AMにより染色した上皮細胞の細胞内ナトリウム濃度を落射蛍光法およびMeta Flour画像処理システムで測定した。細胞内Na^+測定測定後、10μM rhodamine 123により細胞のミトコンドリアを染色し、Zeiss Axoventを使用し落射蛍光法(励起光488nm)にて観察した。MetaMorphイメージングシステムにより個々の細胞における蛍光強度を解析した。内リンパ嚢中間部上皮細胞においてNa^+-K^+ -ATPaseの働きを抑制するK^+-free solutionを投与し、Na^+-K^+ ATPaseを抑制するとすべての細胞で、[Na^+]_iは上昇した。内リンパ嚢中間部上皮細胞にはNa^+,K^+-ATPase活性が高い細胞と低い細胞が存在し、Na^+,K^+ATPase活性が高い細胞はミトコンドリア染色でも強く染まった。モルモット内リンパ嚢中間部上皮細胞には形態学的に異なる2種類の細胞であるtype 1 cell (cytoorganelle-rich cell)とtype 2 cell (filament-rich cell)が存在することが報告されているが、ミトコンドリア染色で強く染まる細胞はtype 1 cellと考えられ、Na^+-K^+ ATPase活性が高い細胞はtype 1 cellであることが推定される。内リンパ嚢におけるNa^+輸送には主にtype 1 cellが関与していると考えられる。実験結果から内リンパ嚢のNa^+輸送能をシュミレーションしたところ、蝸牛内リンパのvolumeを10%変化させるのにかかる時間、すなわち10%の内リンパ水腫が形成される時間が17.9時間(クロライドイオン輸送を伴わない場合は35.8時間)となり、内リンパ嚢・内リンパ管閉塞動物において内リンパ水腫が形成される時間(24時間で38%の増加)と矛盾しない結果になった。内リンパ嚢中間部の上皮細胞(type 1 cell)のNa^+,K^+-ATPaseが内リンパ液の吸収に重要であり、内リンパシステムの恒常性維持に充分な能力を持っていることが示唆される。
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