研究概要 |
かぜウィルスであるアデノウィルスを実験動物チンチラ(12匹)に経鼻的に接種,その7日後に中耳炎を発症させる起炎菌(インフルエンザ菌)を経鼻的に接種し,耳管のどの部位をどのように上行していくか,蛍光顕微鏡と透過型電子顕微鏡にて経時的に観察した。細菌接種1日,4日,7日,10日14日後にチンチラの中耳骨胞を開き,耳管と中耳粘膜を摘出し急速凍結をおこないクライオスタットで凍結切片を作成し蛍光抗体法にて耳管内のインフルエンザ菌を染色する。また同組織をエポキシ樹脂に包埋後,電子顕微鏡のために超薄切片を作成した。そして耳管咽頭孔から中耳粘膜へかけ耳管咽頭部,耳管中部,耳管鼓室部および中耳での付着菌量を経時的に計測した。また耳管の底部・上部に分け,さらに粘液内・線毛上に分け付着菌量を測定した。 その結果,インフルエンザ菌は摂取後約1週間かけて耳管を上行し中耳に到達し中耳炎を起こすことが確認された。またインフルエンザ菌は耳管の内腔の底部の粘液中を上行していくことも確認された。 アデノウィルス感染によって耳管が傷害され粘液線毛機能が低下すると,細菌は耳管の中の上皮ではなく粘液に付着し,徐々に中耳の方へ上行し中耳腔に到達する。粘液は耳管の上部には少なくむしろ底部に多くこの中を細菌が増殖しながら中耳腔へ向かう。この細菌が耳管を上行し中耳腔に達するには7日から10日を要し,そしてその時,中耳炎を発症する。 以上の結果は動物実験によるものであるが,実際の臨床の場でも,小児が風邪をひいてからいったん治り,風邪発症約1週間後に中耳炎を続発する子供が多いことの裏付けとなると考えられる。
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