本研究の目的は感音難聴の主病巣である蝸牛における強大音負荷等による酸化的ストレスのシグナル伝導路の解明、その中での遺伝子発現制御様式の解明、ストレス応答遺伝子の同定などにより、最終的には感音難聴の治療法および予防法を追求することにある。強大音負荷によるTTS(temporary threshold shift)とPTS(permanent threshold shift)における蝸牛組織内転写因子の活性化の違い、およびレドックス感受性遺伝子転写制御因子の一つであるHIF-1(hypoxia-inducible factor)の発現について昨年の知見を検証するため、追加の実験を行った。更に、これら転写制御因子の変化による標的遺伝子の検索を、蝸牛各粗織から抽出したmRNAを用いて、Differential Display法およびAtras cDNA Expression Arrays法(CLONTECH)により行った。Differential Display法は未知の強大音暴露応答遺伝子の検索を可能にすることから、急性音響外傷により特異的に発現する遺伝子の解明に有効である。一方、Atras cDNA Expression Arrays法は既存のストレス応答遺伝子またはアポトーシス応答遺伝子などのcDNAを予め固定したナイロン膜を用いるため、既知の遺伝子の強大音暴露による発現の有無の検索に有用である。しかし、現時点では標的遺伝子を同定するまでには至っていない。今後、さらに標的遺伝子の検索を継続する予定である。強大音暴露により変化した転写制御因子およびその結果として発現した遺伝子の急性音響外傷の病態における役割を明確にすることは、急性音響外傷の予防法、治療法の確立のために不可欠り、継続して検討することが必要である。
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