今年度の研究では、微細な刺激を与えた際のクプラの運動を計測し、半規管の機械的刺激装置としての物理的特性を解明することを目的とした。ウシガエルの前庭器から膨大部を含んだ後半規管膜迷路を露出した。残りの迷路部分は骨に埋没したままとした。これは可及的膜迷路に機械的障害を与えないためである。すべての操作はリンゲル液内で実体顕微鏡下で行なった。卵形嚢側または総脚側において、膜迷路の一部を微細剪刀を用いて切開し小孔を作成した。ここから管に向けて少量の墨汁を微細シリンジにて注意深く注入した。重力によって墨汁がクプラ方向へ移動するように迷路の向きを変えた。墨汁がクプラ表面に到達した後は充分にクプラ表面が染色されるまで迷路を保持した。この方法によりクプラおよび周辺膜迷路を機械的に障害することなくクプラの輪郭を明瞭に描出することに成功した。マイクロマニピュレター先端に装着した微細ガラス管を脚部中央の膜迷路表面に接触させ、少量の圧迫を加えることでクプラの微細な動きを観察した。クプラの動きは高倍率の実体顕微鏡を通してビデオ録画し、偏移量を計測した。クプラ表面を最上部(膨大部天蓋側)、中央部、最下部(膨大部稜側)の3点に分け、偏移量(μ)を計測した。今回観察できたクプラの偏移は、これまで知られていた蝶番様運動でも、中央部のみが弯曲するような弓状運動でもなく、クプラ全体が一体となって移動する運動様式であった。偏移量の平均値は、最上部で131.0μm、中央部69.8μm、最下部0μmであった。半規管感覚毛は比較的長く、クプラ底面に陥入していることが知られている。そこで、耳毒性薬物によって感覚毛を消失させ、これがクプラの運動にどのように影響するかを検討した。薬物としてはゲンタマイシンの内耳内注入法を用いた。感覚毛の変化は走査電顕にて観察し、同様の方法でクプラの偏移を計測した。その結果、偏移量の平均値は、最上部で175.0μm、中央部118.4μm、最下部23.6μmで、正常より大となった。
|