微細な刺激を与えた際のクプラの運動を計測し、半規管の機械的刺激装置としての物理的特性を解明することが目的である。リンゲル液内で膜迷路に機械的障害を与えないようウシガエルの骨迷路を摘出し、後半規管膜迷路を露出した。総脚近傍で、膜迷路の一部を切開し、墨汁を注意深く注入、クプラの輪郭を明瞭に描出することができた。マイクロマニピュレター先端に装着した微細ガラス管を脚部中央の膜迷路表面に接触させ、少量の圧迫を加えることで実体顕微鏡を通してクプラの微細な偏移をビデオ録画し、計測した。クプラ表面を最下部(A点、膨大部稜側)、中央部(B点)、最上部(C点、膨大部天蓋側)の3点に分け、偏移量(μm)を計測した。20μmの圧迫では偏移量は、B点で平均27μmであり、この部が弯曲するようなdiaphragm様運動であった。40μmではswing door様運動であった。半規管感覚毛は比較的長く、クプラ底面に陥入していることが知られている。そこで、耳毒性薬物によって感覚毛を消失させ、これがクプラの運動にどのように影響するかを検討した。感覚毛の変化は走査電顕にて観察し、同様の方法でクプラの偏移を観察、計測した。その結果、偏移量は正常よりやや大となり、感覚毛がクプラ基部の固定に関与していることが推定された。半規管遮断術により半規管の活動性がいかに変化するかはこれまで知られていなかった。ウシガエル半規管を結さつして遮断し、温度刺激による半規管神経活動電位の変化を調べたところ、遮断により電位は増加し、内リンパの物理的容積変化がクプラの偏移量を変化させることがわかった。クプラと膨大部壁周囲との接着状態を注入した墨汁の移動により検討した。両者の接着は強固なものでなく、一定量以上のリンパ流動で接着は乖離した。これはクプラを過大な機械的刺激から防御する機構であると推察した。以上より、半規管クプラの機械的刺激装置としての特性を明らかにすることができた。
|