研究概要 |
我々は多核筋管細胞C2C12細胞の単核細胞への分化を誘導するプリン誘導体であるmyoseverinの神経分化、再生に対する効果を検討した。昨年度報告した様にマウス褐色細胞腫PC12に神経栄養因子(NGF)とmyoseverinを共に添加したところ軸索の伸展が約15%の細胞で抑制されたが、細胞の分裂を誘導することなく、最終的にアポプトーシスを起こした。この時、Ral guanine nucleotide exchange factor (RalGDS)が誘導されることを見い出した。 1.本年度は、更に誘導される遺伝子を同定するためにmyoseverin無添加、添加PC12細胞からそれぞれmRNAを抽出して、myoseverinで誘導される遺伝子のサブトラクションクローニングを行った。その結果、cofilin, ribosomal PO, GADD45βが単離された。 2.これらの単離された遺伝子の全長cDNAをクローニングして、発現ベクターに組み込み、PC12細胞に導入して安定発現細胞株を樹立した。これらの細胞株にNGFを添加して、分化誘導に対する反応を検討したが、コントロールの細胞に比べて有意な差は認められなかった。 3.myoseverinの網膜色素上皮(RPE)の神経細胞へのtransdifferentiation誘導能を検討するために、胎生12日のラットの摘出眼球からRPEを採取して、無血清培地で、myoseverin, basic fibroblast growth factor (bFGF), myoseverin + bFGF,無添加の各条件で培養した。bFGF存在下で3日後に細胞数は無添加群、myoseverin添加群に比べて約200%に増加して、その多くは色素を消失した。更に未分化網膜神経細胞の分子マーカーであるCHX10とnestinの発現を定量性PCRで調べたところ、bFGF添加群はそれらの発現が増加しており、bFGF + myoseverin添加群ではさらに約30%増強していた。 4.上記の培養開始後7日にダリア細胞への分化がおこっているかどうかを検討するためにglial fibrillary acidic protein (GFAP)の発現を定量性PCRで確認した結果、bFGF添加群ではその発現が認められたが、bFGF + myoseverin添加群では、認められなかった。myoseverin添加群では、培養後5日から、アポプトーシスを起こしはじめ、神経終末分化にはむしろ抑制的に働いていると推測された。以上の事実より、myoseverinはbFGFのRPEのtransdifferentiation能を初期には増強するが、後期ではむしろアポプトーシスを誘導し、その毒性が課題になると考えられた。
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