研究概要 |
ミューラー細胞と網膜色素上皮細胞(RPE)は網膜神経細胞のイオン環境特にK^+イオンの濃度調節を司ると考えられる。ミューラー細胞によるK^+イオンのバッファリングやRPEのapical側に大きなK^+コンダクタンスが存在することが知られており、近年その実態が内向き整流性K^+チャネル(Kir)であることが示された。KirはKir1.1からKir7.1まである。我々は網膜においてKirサブタイプがどのように局在し機能しているかを蛋白レベルで解析した。ミューラー細胞の細胞体または遠位側にはKir4.1/Kir5.1の異種4量体が局在し、エンドフット側にはKir4.1同種4量体が局在している。Kir5.1がGABA産生アマクリン細胞に染色される。またKir7.1がRPE apical processの基底部に局在しRPEのK^+イオン特性を決めて網膜下腔のK^+イオンの恒常性に関与していることを示してきた。今後は生体網膜での電気活動の観察が必要であるが、電位依存性カリウムチャネル(Kv)に対しては特異的阻害薬ペプチドが知られる一方でKirに対してはそのようなペプチドはなく、生体網膜での機能解析は困難であった。最近になり蜂毒のテルチアピンがKirのいくつかを阻害することが報告された。そこで培養細胞系とアフリカツメガエル卵母細胞を用いてクローン化されたKirの全細胞電流に対するテルチアピンへの影響を検討した結果Kir1.1,Kir3.1/Kir3.4,Kir3.1/Kir3.2d,Kir3.2dでは電位非依存的に全細胞電流を阻害することを見出した。IC50はそれぞれ33nM,16nM,7nM,5.4nMであった。 Kir2.0,Kir4.1,Kir6.0では100nMまでの濃度で阻害しなかった。テルチアピンはチャネル外側に結合すると考えられており、その結合性は細胞外チャネル構造を反映すると考えられた。そこで同じサブファミリーに属するKir1.1とKir4.1とが全く異なる反応をすることを利用し2種チャネルのキメラクローンを作り、テルチアピンの阻害特性からチャネル外側の構造的特徴を検討し、その結合サイトがチャネルポア近傍であることを解析した。今後ペプチドの構造を変化させることで各Kirに特異的阻害ペプチドを合成し生体網膜での機能解析を行うことが可能となる。
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