研究概要 |
本研究では、末梢神経移植によって再構築させた視覚経路の機能回復の程度を評価するための方法として、初年度はコントロールとして正常ラットを用い、α-クロラロース麻酔下での行動実験を実施した。その結果、光刺激を先行刺激とした聴覚性驚愕反射の抑制効果を認めた。今年度、同じく麻酔下に動き刺激を先行刺激した驚愕反射の抑制効果を得るべく努力したが、予想外の要因のため明確な抑制効果は得られなかった。そこで、新たにシャトル箱回避実験を実施したところ、正常ラットで、輝度変化を伴わない純粋な動き刺激に対する反応を得ることが出来た。さらに反応可能な動き刺激の下限の速度をおよそ推定することに成功した。シャトル箱回避実験では7-8週齢のWistar系ラットをシャトル箱に入れ、視覚刺激としてサイン波状の格子パターン(空間周波数0.5c/d)を常時提示した。条件刺激(CS)として格子パターンを10s間動かした。動きの速度は40,20,1.5,0.5deg/sの4種類とした。CS提示開始10s後に無条件刺激として、床グリッドから電気ショックを与えた。1日50試行の訓練を5日間実施したところ、回避率はいずれの群でも訓練に伴う増大を示し、5日目で55-70%の回避率を示した。9匹の移植動物を用い、白色LEDの点灯を聴覚性驚愕刺激(白色雑音113dB)に50-100ms先行させて提示し、自由行動下の状態で先行刺激抑制効果を検討したところ、驚愕反応の振幅が減弱する傾向を示したのはわずかに1匹だけであった。この動物は20deg/sの速さの動きを条件刺激とした回避実験で訓練に伴う回避率の増大が観察された。一方、40deg/sの動きに対する訓練では回避率の増大は認められなかった。以上の結果は、移植動物では正常動物とくらべ、検出可能な動き刺激の範囲は限られるものの、動き刺激の検出、認知が可能であることを示唆している。
|