研究課題
最終年度も、成獣ラットを用いて、視神経切断端への2本の末梢神経移植術を試みてきた。残念ながら、手術侵襲が大きく、視神経切断端への一本の移植術に比べて軸索再生率が著しく低い傾向があった。今後も、詳細な条件検討が必要と考えられた。一方で、Eph等の、発生期にretinotopy形成に関わる遺伝子の多くが、成獣でもそのgradientな発現パターンを保っていることが明らかになってきた。再生視覚回路で、retinotopyが形成されない理由は、当初予想されたメカニズムとは異なる可能性が示唆された。視神経切断によって誘導される複数の細胞死関連遺伝子群の発現動態が詳細に明らかになった。昨年度までに明らかになったHrkと同じくBH3-only proteinであるBimEL遺伝子の視神経切断による発現誘導がrealitime RT-PCR法により検出できた。Hrkと異なり、BimELは、正常網膜でもその発現が検出できるため、組織レベルのin situ hybridizationでも、何らかの定量的な解析が必要とされた。in situ hybridizationのシグナル検出をフルオレセイン・チラミド(TSA)による蛍光検出とし、共焦点レーザー顕微鏡(Carl Zeiss杜、LSM510)によって蛍光強度の検出を行ったところ、正常時よりも、視神経切断後1日目の網膜神経節細胞で、蛍光強度の上昇が認められた。従って、視神経切断後1日目におけるBimELの発現上昇は、発現細胞数が増加するのではなく、一個の細胞内で、発現が上昇したものと推測できた。この方法は、視覚中枢における遺伝子発現の定量解析にも有益であると考えられる。今後は、視神経の外科的切断という刺激が、どのような情報伝達で網膜神経節細胞の細胞体、および視覚中枢神経に伝わり、遺伝子発現変動を引き起こすのかに着目して研究を進めたい。
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