ラットの視神経を外科的に切断し、切断端と視覚中枢の間に坐骨神経等の末梢神経を架橋移植すると、哺乳類では自然再生しない視覚回路が再建される。この実験系の臨床応用を目指すため、再生視神経数を増やし、かつ、正常と同じ網膜-視覚中枢投射パターン(retinotopy)を再構築するための基礎実験を行うことが本研究の目的である。 まず、2本の末梢神経移植として、1本を耳側眼球に、もう1本を鼻側眼球に刺入した。これは将来、それぞれ吻側中枢、尾側中枢へ架橋移植してretinotopyを強制的に再構築しようという試みである。ラットを材料に試行錯誤を繰り返したが、Ora serrataよりも前部に移植片を刺入して眼球内出血を避け、かつ接着剤で縫合することで、ほぼ成功した。 次に、ラットの視神経切断前後網膜の転写産物の差を同定するため、DNAアレイ実験とcDNA libraryのdifferential screeningを行った。これらの結果から、転写レベルで両者の差を示す遺伝子としてHrk、BimEL、ARG357を同定することに成功した。Hrkの発現は正常網膜では同定できず、視神経切断後1日目に始めて網膜神経節細胞での発現誘導がRT-PCRとin situ hybridizationで確認された。ARG357とBimELの発現は正常網膜で同定できたが、視神経切断後約3倍の発現上昇を定量RT-PCRで同定した。そこで、視神経切断前後の網膜切片でin situ hybridizationを行った。蛍光シグナルを、共焦点レーザー顕微鏡で定量化した結果、ARG357、BimELとも、視神経切断後での網膜神経節細胞のおける発現上昇が確認された。本結果は、将来retinotopy再構築に関わる分子の同定に大変有益である。 本研究成果を基礎として、さらなる末梢神経移植法の改良とretinotopyの再構築を目指したい。
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