細胞内カルシウムイオンは細胞増殖において重要な制御因子のひとつである。網膜器官培養系における実験から、細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出(カルシウム動員)とカルシウムストアの枯渇により活性化される容量性カルシウム流入がDNA合成に必要であることをすでに報告した。本研究では、リアルタイム共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて網膜神経上皮細胞におけるカルシウムシグナルの流れとその細胞周期依存性を明らかにすることを目的とした。発生初期(孵卵3日目)の鶏胚から網膜神経上皮を単離して網膜フラット標本を作製し、カルシウム濃度上昇が生じる部位を画像解析した。また、孵卵6日目(E6)の網膜神経層の縦方向スライス標本のカルシウムイメージングも行った。その結果、ATP受容体の活性化によるカルシウム濃度上昇はS期細胞の核内で顕著に生じた。M期細胞、或いは、神経細胞に分化した細胞(網膜神経節細胞)ではカルシウム濃度上昇はわずかであった。この結果はE6網膜スライス標本においても確かめられた。また、細胞内カルシウムストアの分布を小胞体の蛍光プローブ、及び、蛍光タプシガルギンを用いて調べたところ、S期細胞の外側突起、及び、その終末部に小胞体カルシウムストアが存在し、核膜が小胞体とともにカルシウムストアの一部を形成していることが明らかになった。容量性カルシウム流入を誘起した場合、S期細胞の核内、及び、外側突起終末部でカルシウム濃度上昇が見られた。さらに、S期細胞の核内カルシウム濃度が自発的に振動する現象(カルシウムオシレーション)が見られた。今後はこのカルシウムオシレーションの誘発メカニズムを明らかにし、網膜神経上皮組織における構造的な極性とカルシウムシグナルの流れについて解析をすすめてゆく。
|