研究概要 |
1.我々の確立したN-methyl-N-nitrosourea (MNU)誘発網膜変性症は視細胞アポトーシスに起因し、ヒト網膜色素変性症と同一機転による(Am J Pathol,1996)。このモデルを用いて、caspase-3阻害剤による病変の制御に成功した(Exp Eye Res,2000)。なお、caspase-3阻害剤はrd遺伝子誘発網膜変性症の抑制にも有効である。しかし、caspase-3阻害剤による変性の制御は網膜辺像部においてのみで、rdモデルにおいては一過性であり、網膜変性の抑制は完全とは云い難い。 2.低酸素状態はアポトーシスの誘因となるが、代謝活性の高い視細胞は酸素要求度は高いにもかかわらず、低酸素環境下にある。よって、高濃度酸素による網膜変性のより完全な抑制につき、MNUマウスモデルを用いて検討した。実験はC_<57>BLマウスに50mg/kg MNUを単同腹腔内投与し、直ちに21%、45%、70%、95%の酸素濃度環境下に3時間暴露し、7日後に屠殺して網膜を観察した。なお、95%酸素群では,既法に則り(Lee AE and Wilson WR, Toxicol Appl Pharmacol,2000)、血流増大作用を有するニコチン酸アミド(NAM;1000mg/kg)をMNU投与直後に単回皮下注射し、酸素分配の増感作用を期待した。結果、高濃度酸素群(95%酸素)では、網膜の後極・辺像部を問わず、網膜全周性に視細胞アポトーシスの軽減をみた。ところがNAMの併用を中止するとアポトーシスの制御が不能なことが判明した。 3.そこで、神経保護作用(抗アポトーシス作用)を併せもつNAM単独投与による病変制御にとりくんだところ、MNU誘発視細胞アポトーシスはラットにおいては25mg/kg NAMで、マウスにおいては1000mg/kg NAMの単回投与で病変の完全抑制が形態的に可能なことが判明した。
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