研究概要 |
神経芽腫の生物学的特性を決定付ける様々なgenetic eventと神経分化に関与するプロト癌遺伝子の発現のうち、腫瘍細胞におけるNGF (Nerve Growth Factor)のシグナル(trk A,神経特異的src)の発現の有無は、患児の予後に密接に関連する。本研究ではtrk A全長cDNAを用いtrk A発現アデノウイルスを作成し、これを神経芽腫培養細胞に感染させ、NGF処理により神経分化誘導のモデルを確立する。 昨年度、作成したtrk A発現アデノウイルスをN-myc遺伝子の増幅した神経芽腫培養細胞NB-1に感染させ、Mutiplicity of Infection(=moi,プラーク形成単位/細胞)とNGF濃度を段階的に調節し、ウイルスの毒性と蛋白発現量、形態的な分化誘導の変化を検討した。その結果、moi=20以上,NGF=50ng/ml以上で、感染後2週間でganglion-like clusterの形成と太く長い神経突起の伸張といった形態的な神経分化が誘導された。形態的分化の他に、N-myc mRNAのdown regulation、Neurofilament mRNAのup regulationを定量的RNA-PCRでチェックしたところ、形態的な変化に一致してこれらの遺伝子発現の変化が確認された。また、分化誘導に伴うimmediately early geneのc-fos mRNAの一過性の発現も定量的RNA-PCRで確認することができた。 Src遺伝子の調節領域をアンチセンス方向にアデノウイルスに組み込み、アンチセンスsrc発現アデノウイルスを構築し、神経芽腫細胞株に感染させたところsrc蛋白の発現減少が認められた。神経芽腫NB-1に、trk A発現アデノウイルスとアンチセンスsrc発現アデノウイルスを二種感染させてNGFを投与したところ、神経突起の誘導はやや抑制された。神経芽腫におけるNGFシグナルの神経分化誘導にはsrc蛋白が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
|