本研究は臨床使用に適したTissue Engineering皮膚(複合培養皮膚)の開発を目的とするものである。皮膚のTissue Engineeringにおいては、培養細胞成分のよりよい調整とその足場であるマトリックスの開発が必須である。今年度は、細胞成分として表皮細胞と線維芽細胞の混合培養法を進歩させ、マトリックスとして同種皮膚を用いた無細胞真皮マトリックスの開発を試み、以下のような結果を得た。 1、無細胞真皮マトリックス(Acellular Dermal Matrix : ADM)の作成:ヒト同種皮膚の無細胞化を以下のような種々の処理方法で行った。 a:デイスパーゼとトリトンX100による処理、b:凍詰・融解の反復による処理、c:高張食塩水とSDSによる処理、d:トリプシンとトリトンX100による処理。 これらの方法のいずれにおいても同種皮膚は無細胞化されたが、ADMにおける基底膜成分の残存程度は処理方法の違いにより異なっていた。 2、ADMの安全性と移植特性:細菌学的試験およぴ細胞毒性試験にてADMの安全性を確認した後、ADMをラット皮下に移植した。その結果全てのADMは拒緯されることなく生着した.さらにADMと自家植皮の同時移植を同様のモデルで検討した結果、種々の処理方法で作成したADMの中で、トリプシン・トリトンX100処理ADMが最も高い生着率を示し、有意に創収縮を抑制した。 3、ADMへの細胞の組み込み:ADMへの表皮細胞と線維芽細胞の組み込みにおける最適な細胞密度を検討するために、両培養細胞の播種比率を変えて各種増殖因子の産生量を測定した。その結果、等量の播種濃度での増殖因子の産生が安定していた。これらの結果からトリプシン・トリトンX100処理ADM上に表皮細胞と線維芽細胞の混合播種を試みた。現在こうして作成したTissue Engineering皮膚の組織学的検討に着手している。
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