本研究計画では、ラット臼歯歯根を研究対象とし、コラーゲン等の細胞外基質分子と共に、組織細胞内でのMMPsとTIMPsの遺伝子発現の動態を検索して、セメント質の発生過程における細胞外基質の産生及び分解とその制御機構を明らかとすることを目的とした。また、比較の対象として、セメント質と類似した組織構造をもつ骨の発生過程に関しても同様に検討し、細胞外基質の産生と分解について、セメント質と骨、それぞれの発生における特異性も併せて検索した。 平成13年度では、コラゲナーゼであるMMP8とMMP13に着目し、骨の発生過程を検討した。胎生期及び成長期のラットの下顎骨と脛骨を研究対象として、RT-PCRとin situ hybridizationを利用しMMP8とMMP13遺伝子発現をI型コラーゲンと比較して検討した。MMP8は骨膜細胞、骨細胞、扁平な骨芽細胞に広く発現していたが、I型コラーゲンを活発に産生する立方形の骨芽細胞には発現が認められなかった。一方、MMP13の発現は、骨細胞及び扁平な骨芽細胞に限られていた。骨の発生過程において、骨芽細胞と骨細胞がMMP8とMMP13を発現し、細胞外基質の分解に関与する可能性が示めされた。この研究成果は、Sasano et al.(2002)J Histochem Cytochem 5O:325-332の誌上で既に発表している。 平成14年度では、ラット臼歯歯根を研究対象とし、セメント質の発生過程においてRT-PCRとin situ hybridizationを用いて同様の検索を行い、セメント芽細胞とセメント細胞がMMP8を発現する一方で、MMP13をほとんど発現しないことを明らかとした。さらに骨芽細胞・骨細胞とセメント芽細胞・セメント細胞が細胞外基質分子およびMMPsと共にTIMPs1、2、3を併せて発現し、MMPsの機能を制御する可能性についても示した。この研究成果は、Tsubota、Sasano et al.(2002)J Dent Res 81:673-678の誌上で既に発表している。
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