研究概要 |
病原細菌は生体内では様々な増殖環境(酸素濃度,栄養因子等)の変化に適応して増殖する。本研究は生体内で特異的に発現し,機能している遺伝子や蛋白を探索し,解析することを目的に行った。これまでの研究によって,生体内では病原細菌の増殖に不可欠である鉄の濃度が極端に少ないため,病原細菌は特殊な菌体蛋白を発現して鉄を獲得していることが明らかとなった。そこで,歯周病細菌Actinobacillus actinomycetemcomitans(Aa)の酸素濃度応答および鉄獲得系に着目して研究を進め,以下のような成果を得た。 1)Aaの鉄獲得系に関わる蛋白の発現を制御する転写制御蛋白遺伝子であるFerric Uptake Regulator Protein(Fur)遺伝子を単離し,その遺伝的解析を行った。Aaのfurは大腸菌fur欠損株の機能を補い,鉄濃度制限下で遺伝子発現が顕著であること等から,Aaにおいても鉄獲得系を制御することが明らかとなった。 2)Aaの増殖環境における酸素濃度に対する応答において重要なセンサー蛋白として明らかにしたactX遺伝子の上流領域の解析を進めた結果,細菌菌体内に鉄を蓄積するために重要な働きをするフェリチン蛋白をコードする遺伝子を見出した。この遺伝子は2つの類似するフェリチン蛋白が並列に並んで発現するというAaに特徴的なものであった。フェリチン蛋白の発現は好気培養の方がその発現が上昇することから,鉄の蓄積だけでなく,酸素毒性の軽減にも働く可能性が示唆された。 現在,AaのFur蛋白とフェリチン蛋白についてリコンビナント蛋白を精製し,結晶化してその立体構造解析を試みている。
|