研究概要 |
歯周炎の病巣である歯周ポケット中には,多種・多様の細菌が生息して複雑な生態系が形成されている.これまでの細菌学的および免疫学的な研究の結果,数種のグラム陰性嫌気性菌が主たる原因菌と考えられ,これらを中心に歯周病の発症に関わる病原因子が解析されてきた.我々の研究室では,若年性歯周炎あるいは難治性歯周炎の原因菌の一つと考えられているActinobacillus actinomycetemcomitansがこれまで報告されている外毒素とは異なる新規毒素を産生していることを見出した.今回の研究では,まず,すでに遺伝子がクローニングされているcytolethal distending toxin (CDT)の細胞周期停止機構と新規毒素の活性発現機構を比較検討した.CDTがHela細胞でG2/M期で著しい細胞周期の停止を引き起こすのに対し,新規毒素はこの細胞でアポトーシスを誘導することを明らかにした.さらに,CDTも白血球系の細胞株であるU937細胞に作用させると,新規毒素と同じようにアポトーシスを誘導することが明かとなった.さらに,CDTのサブユニットCDT-A, CDT-B, CDT-Cのリコンビナントタンパクを用いて調べたところ,活性発現に直接関わっているのはCDT-Bであり,CDT-AとCDT-Cは,CDT-Bの細胞内移入にのみ関与していることが示唆された.以前,論文で報告したように,新規毒素には本菌が産生するロイコトキシンやCDTなどは含まれていないことを確認しているが,今回,新規毒素にCDT-Bの混入はないことをあらためて確認した.しかしながら,今回,部分精製標品をより純度の高めてきたが,アミノ酸配列を決定するまでには至らなかった.さまざまな精製方法で単一タンパクまで精製してきたにも関わらず,成功に至らなかったことを踏まえ,今後は遺伝子工学的な方法を取り入れて,新規タンパクの遺伝子のクローニングを行っていかざるを得ないと考えている.
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