研究概要 |
『目的』生体内未分化間葉細胞は骨芽細胞、軟骨細胞と筋芽細胞とに分化するが、分化の方向を規定する因子については不明な点が多い。培養脂肪細胞は未分化間葉細胞や樹立細胞にデキサメタゾンやインスリンの添加によって誘導されるが、血清因子のみでの誘導効果については知られていない。今回、我々は胎仔牛血清(FBS)の代わりにニワトリ血清(CKS)を10%の割合で添加培養すると、軟骨細胞が脂肪細胞に機能転化することを見い出した。本研究ではCKS因子によって軟骨細胞に誘導される脂肪細胞の形態的特徴を明らかにした。 『方法』材料は胎生17日のマウスメッケル軟骨を用いた。軟骨細胞浮遊液は、我々の確立した方法(Ishizeki et al.,1996)によって分散した。細胞はペニシリンダー当たり、1x10^4個の密度で播種し、炭酸ガス培養した。一部はコラーゲンゲルで包埋培養を試みた。培養液はα-MEMに10%CKS、アスコルビン酸(50μg/ml)とβ-グリセロリン酸(3mM)を添加し、コントロール血清には10%FBSを用いた。培養細胞は脂肪染色、免疫染色と電顕的に観察した。また、BrdUの取込みからDNA合成細胞を算定した。 『結果および考察』メッケル軟骨細胞をCKS存在下で培養すると、多形ないし紡錘状の細胞内に脂肪滴が増加し、数日後には細胞質全体に充満した。このような脂肪滴はズダン陽性の典型的な脂肪細胞の性質を示した。細胞の増殖能は低く、緩慢な成長曲線を示した。電顕的に脂肪細胞は、多数のオスモヒーリックな脂肪滴とミトコンドリア以外細胞小器官に乏しかった。免疫染色では、脂肪細胞のマーカー蛋白とされるPPARγ,CUP-1,レプチンに陽性反応を示した。こうしたCKSの効果は液体窒素(-196°C)や熱処理(60°C-5分)にも安定しており、ロットや各会社による相違はなかった。一方、CKSはすでに分化した軟骨細胞に対しては脂肪細胞への転換を誘導しなかった。CKS存在下では軟骨細胞への分化が抑制され、脂肪細胞に転化することから、本血清因子には幼若な軟骨細胞を機能転換させる何らかの因子が含まれることが想定される。CKS因子の本態については不明であるが、目下ホルモンレベルでの分析を検討中である。
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