哺乳類における歯齪接合上皮-エナメル質界面の接着機構を解析する研究の一環として、本年度は比較組織学的見地からサメの歯を材料に選び、これの発生期からエナメロイド形成、石灰化、成熟、及び萌出期にかけての各ステージについて高分解能電子顕微鏡的に検索を行った。 哺乳類の基底膜は紐状構造(cords)の網目配列を基本構造とするが、今回観察したサメの歯胚基底膜の全てに同構造を認めることができた。発生期のサメ歯胚において、内エナメル上皮基底膜は、透明層、緻密層および線維網状層で構成されていた。線維網状層には哺乳類の歯胚基底膜で豊富に見られる微細線維(basotubules)を欠如する代わりに緻密層の一部が細い帯状を呈して歯乳頭に向かって配列し、その尖端は歯乳頭細胞の突起を囲んでいた。エナメロイド形成期になると線維網状層は消失するものの、緻密層が漸次厚みを増し、その歯牙に面する部位ではcordsとエナメロイド基質が連結していた。石灰化期では、小片化したエナメロイド基質がエナメル上皮基底膜中に進入する像がしばしば観察された。成熟期になるとエナメロイドに面する基底膜の一部に微細な結晶が沈着し、これがエナメロイドの最表層を構成していた。 以上の結果から、サメの歯の基底膜は歯牙の発育に伴い機能に応じた構造変化を現すことが明らかとなった。殊に、今回観察された成熟期エナメル上皮基底膜の一部が石灰化する現象は、歯齪接合上皮とエナメル質との接着機構を考察する上でのヒントを提供するものと思われる。
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