歯齦接合上皮とエナメル質との接着機構を明らかにする目的で、哺乳類のなかではヒトに最も類似するサルを材料に、また、比較組織学的見地からは、歯を有する動物としては最も原始的な軟骨魚類のサメを選び高分解能電子顕微鏡的に検討した。 1)サルの歯齦接合上皮はヘミデスモゾームを介して内側基底板に接着していた。セメント-エナメル境界付近の基底板は、そのエナメル質側では、内部に微細なフィラメントを容れた径約80nmの球状ないし半球状構造が断続的に出現していた。これらの構造は互いに融合しながら次第に厚みを増し、厚いところで幅約200nmの層を形成していた。高倍率で観察すると、この層にはコードネットワークが認められることから、これはエナメル質と既存の内側基底板との間に添加形成された基底板(supplementary lamina densa)であると推測された。非脱灰切片では、このsupplementary lamina densaのコードネットワークに沿って微細な結晶が沈着しエナメル質の結晶と連続していた。すなわち、内側基底板は、そのエナメル質側の一部が石灰化して最表層エナメル質を構成することにより歯肉接合上皮-エナメル質の強い接着を仲介していることが示唆された。 2)サメでは接合上皮とエナメロイドの間に、基底板とヘミデスモゾーム様構造が介在していた。基底板は幅300nmの均一な層でエナメロイド表面に沿ってこれと平行に分布していた。高分解能電顕で観察するとコードネットワーク構造が認められた。各コードの厚みは8-12nm、網目は20-25nmであった。この基底板と接合上皮との間には半円あるいは四角状の構造がしばしば出現していた。これを拡大すると、やはりコードネットワーク構造を示し、これは基底板のコードネットワークと連続していた。一方、細胞質側ではトノフィラメントがこの半円構造に連結していた。以上より、この半円構造はヘミデスモゾームの進化途上のものと思われ、機能的には接合上皮と基底板を連結しているものと推測された。非脱灰切片では、基底板に微細結晶が沈着し、その全てが石灰化することにより表層エナメロイドの一部を構成していた。 以上、歯齦接合上皮の基底板とエナメル質あるいはエナメロイドとの界面では、基底板が自ら石灰化することによってその両者を繋ぐという、ユニークな接着機構が明らかとなった。
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