研究概要 |
哺乳類において、外套象牙質の石灰化は基質小胞による石灰化であるが、それ以外の髄周象牙質の石灰化はコラーゲン線維に関連する石灰化様式で形成される。歯冠部の象牙前質において、球状の石灰化球が認められた。歯根部の根尖側の象牙前質では石灰化球は認められず、石灰化したコラーゲン線維が観察された。石灰化球の発達や分布に種差が見いだされた。ヒトやウシなどの有根歯の歯根部とラットやウサギなどの無根歯のセメント質に覆われる舌側部とでは、歯冠部より、石灰化球の形態や大きさが大きく異なっていた。有袋類オポッサムでは歯頸部周囲のみに石灰化球がよく発達していた。爬虫類ワニでは、石灰化球の大きさは哺乳類のものより小型であり、表面に線維状の構造が観察された。ヒト、ウシ、オポッサムの石灰化球のCa/P比では歯冠部と歯根部で有意の差が見出された。無根歯であるラットやウサギ、あるいは多生歯のワニでは差異が見出されなかった。歯の形成機構の違いが石灰化球の形態形成に関与すると考察される。石灰化球の形態形成を分析電子顕微鏡で検索した結果では、石灰化球の形成には、カルシウムやリンの主要な元素以外のMg,S,K,Alの元素が微量に検出された。石灰化球の形成には、カルシウムやリンの主要な元素以外の微量な元素のうち、特にMgが重要な役割を持つことが分析電子顕微鏡の観察から明らかになった。Mgは象牙質のアパタイト結晶の物理化学的安定性に寄与し、石灰化球の形成初期に多く検出された。これは石灰化球の形態形成初期の核形成に関与すると思われる。また、Sの局在は石灰化球中に非コラーゲン性蛋白質であるプロテオグリカンの存在を意味すると考察される。プロテオグリカン内の硫酸基のSが検出されたと判断される。ワニの石灰化球は小さく、歯頸部から歯根部にSが分布していた。プロテオグリカンはコラーゲン線維形成に関与し、さらにCaと親和性があることから、石灰化球の形成を制御すると考察された。ヒト臼歯を抗ヘパラン硫酸抗体で染色した場合、冠部歯髄と根部歯髄で免疫反応態度が異なっていた。この所見は歯冠部と歯根部での石灰化球の形態や発達程度の相違と関連があると考察される。歯冠の象牙前質においては、象牙質が形成されつつある部位でよく反応が見られた。石灰化前線には石灰化球が存在しており、石灰化球の形成とヘパラン硫酸の局在に関連があることが示唆された。
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