研究概要 |
細胞外マトリックスであるテネイシンにはC, X, R、Yなどのファミリーがあるが、このうち、関節や靭帯などに関係するテネイシンXや細胞の接着や接合に関係するテネイシンCが主体である。このため、この研究ではラット顎関節と咀嚼筋を用いて1)器官形成期、2)食性ストレス下におけるこれらテネイシンCとテネイシンXの転写と翻訳レベルから検索し、顎機能や器官形成における細胞外マトリックスの働きを調べた。 1.器官形成期のテネイシンの動態について:テネイシンCとテネイシンXの発現では胎生期18日齢では筋、筋の結合組織、下顎頭の骨梁形成部において発現がみられたが、胎生20日齢になると、関節円板の外側部にテネイシンXが発現しており、テネイシンCの発現とは異なった。さらに、生後ではテネイシンCは主に筋や関節円板の中央部に反応がみられた。それに対してテネイシンXは主に筋腱接合部や関節円板の中央部と外側部、下顎窩の骨梁に反応がみられた。それ以降でも同様な傾向がみられた。このことからテネイシンCは胎生20日齢から生後の間にテネイシンファミリーの動態に大きな変化がみられ、この次期に細胞の移動、接着が盛んに行なわれ、器官形成がすすんでいったものと推測される。さらに、mRNAの発現レベルでは生後直後ではややテネイシンCの発現量がテネイシンXに比べ多かったが、他の時期では大きな発現量の差はみられなかった。このことから、生後直後に両者の働きの違いが推測され、しかも関節円板での発現部位に大きな差がみられたことは顎関節の形成過程の中で関節円板の形成にこれらの細胞外マトリックスが関与することを示唆した。 2.軟食における顎関節への影響について:離乳後3週間粉末餌を与えて飼育したところ、対照群ではテネイシンCは関節円板前後の骨との移行部に主にみられ、1週目の実験群ではそれに加え、円板中央部に強い反応がみられた。それに対してテネイシンXは関節円板と同じ部位での下顎窩側の結合組織に強い反応がみられた。他には下顎頭の骨梁中に反応がみられた。ストレス下の細胞増殖と細胞死の関係からPCNA陽性細胞の局在とアポトーシスの発現を調べ、PCNA陽性細胞は対照群では骨形成部の軟骨細胞、さらに、関節円板の外側と内側の部位にみられた。実験1週目で陽性細胞数は減少し、3週目で増加した。それに対してアポトーシスの陽性細胞は実験群では下顎頭と下顎窩の骨形成部位の骨梁周囲に主に見られた。実験群では2週目で下顎頭の軟骨部にも出現した。さらに8週目では軟骨部位、上皮組織にも散在された。このストレスによって3週目までは顎関節を構成する組織を構成する細胞群やテネイシンCとテネイシンXの発現に変化がみられ、物理的な刺激が細胞の誘導、移動、分離に関与することが示唆された。
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