研究概要 |
ヒトパピローマウイルス(HPV)が種々の前癌ならびに癌病変に検出されることから、HPV感染と発癌との関連が多くの注目を集めている。しかし、HPVには種特異性があり、HPVは動物に感染しないことから、HPVについてのin vivoでの感染実験を用いた癌化の証明は不可能である。我々は、dimethyl benzanthracene(DMBA)を用いて6-8週という短期間にハムスターの口腔粘膜に上皮性異形成、扁平上皮癌を誘発できる実験系を確立した。この方法により誘発された上皮性異形成(前癌病変)にパピローマウイルス共通抗原が検出された。そこで我々は、この病変から新しいハムスター口腔パピローマウイルス(HOPV)の分子クローニングを行い、この発癌モデルにおけるHOPVの関与について解析した。HOPVのゲノムのうち、ウイルス粒子の主要構造蛋白をコードする遺伝子L1を培養細胞に発現させ、ウイルス様粒子を産生して免疫用の抗原を作成して、これによりHOPVの免疫を獲得したハムスターでは、発癌処置を加えても発癌に至らなかった。この結果、癌化過程でHOPVが重要な働きをしていることが明らかになりワクチン接種が癌抑制に有用であることが示唆された。本年度では上記の昨年度の結果をふまえてDNAワクチンの創製についての検討を行なった。HOPVのゲノムを培養細胞に発現させ、各主要遺伝子を増幅して発現プラスミドに挿入し、HOPVのnaked pDNAを作成した。これらのHOPVのnaked pDNAを上記の発癌モデルに接種して、その効果を検索したところ、HOPVのゲノムの主要遺伝子、特にE6,E7,L1領域のnaked pDNAを接種したときに癌抑制効果があることが示唆された。
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