本研究では、レチノイドシグナルがCbfa1の発現を促進する一方、Ihhの発現を制御することにより、内軟骨性骨化を制御しているという仮説を実証することを目的としている。本年度は以下のような結果を得た。 1.レチノイド感受性エレメントにβガラクトシダーゼを接続した遺伝子を組み込んだF9細胞に、軟骨組織の抽出液を添加し、βガラクトシダーゼ活性を測定した結果、レチノイド活性は肥大細胞層に近接する軟骨膜に強く検出され、他の軟骨組織においては活性が弱かった。 2.軟骨組織発生初期(鶏胚5.5日齢)の肢芽の軟骨形成部にレチノイン酸を含有するビーズを移植すると、Cbfa1の発現が誘導された。また、レチノイド拮抗物質を含有させたビーズの移植近傍では軟骨細胞の肥大化マーカーの遺伝子発現が強力に抑制された。 3.レチノイドシグナルにより誘導される、軟骨細胞の終末分化促進作用はCbfa1の機能の阻害により完全に抑制された。一方、レチノイドシグナルを阻害しても、Cbfa1による終末分化促進作用は阻害されなかった。 4.レチノイド添加による軟骨細胞におけるIhhの発現の変化を検索したところ、未熟軟骨細胞においてはレチノイドはIhhの発現を促進するが、成熟軟骨細胞においては逆に阻害することが判明した。 以上の結果より、レチノイドシグナルはCbfa1の発現を誘導することにより、軟骨細胞の肥大化を促進すること、および肥大化期の軟骨細胞におけるIhhの発現を制御していることが考えられ、内軟骨性骨化の制御におけるレチノイドシグナルの重要性が強く示唆された。
|