研究概要 |
皮膚の創傷治癒に伴ってできる瘢痕の予防のためにコラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP47を発現調節の面から検討した.その結果,瘢痕をつくらずに創傷が治癒する胎児マウスではコラーゲンの発現もHSP47の発現も上昇しないこと,一方瘢痕をつくる新生児ではコラーゲンとHSP47の発現が上昇し,両者の発現が密接に関連することを見いだした(王ら,雑誌論文4).このことはHSP47アンチセンスセラピーによって,創傷治癒に伴うコラーゲンの蓄積すなわち瘢痕形成を抑制できる可能性を示唆しており,現在新生児のラットにおいて本実験を試みている.さらに今後は,HSP47-GRP94(小胞体型HSP90)分子シャペロン複合体がコラーゲンのプロセシングにどのように関わっているかを明らかにする予定である. 一方HSP90分子シャペロンのペプド結合機構についても検討した。以前に報告しているヒトHSP90の3ドメイン構造に基づいて各ドメインを発現したが,HSP90のドメインは発現時にすでに重合しており,その精製標品はその後の解析には適さなかった.そこで哺乳類HSP90の大腸菌ホモローグであるHtpGについて,その3ドメイン構造を明らかにし(雑誌論文1,2),各ドメインのうちN末ドメインにターゲットペプチド結合があることを見出した(雑誌論文1).しかも,N末ドメインとミドルドメインには相互作用して通常はN末ドメインのペプチド結合部位は覆われているが(雑誌論文2),熱ショックによりこの結合が解離してHtpGがペプチド結合能を獲得するという機構が明らかとなった(雑誌論文3).このドメイン間相互作用はヒトHSP90と大腸菌HtpGに共通に存在し,さらに両種のドメイン間で交換可能であった(雑誌論文3).このことはHSP90の機能発現におけるこのドメイン間結合の重要性を示唆した.現在この点については酵母のHSP90発現系により,in vivoに近い状態での証明を試みている.
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