研究概要 |
光化学療法はある種の化学物質が腫瘍細胞に集積しやすい性質を利用して,光増感物質を添加後励起し,生ずるフリーラジカルにより腫瘍細胞を死滅させるものである.これまで,歯髄細胞に対する細胞障害性,特に還元剤の添加や可視光線(VL)照射の影響についではほとんど報告が見当たらない.そこで我々は,カンファキノン(camphorquinone, CQ)によるフリーラジカルの産生,リポゾームを用いる相転移温度の変化とともに,ヒト歯髄線維芽細胞(HPF)を用いて,活性酸素(ROS)の産生および細胞生存率を測定し,芳香族型光増感剤9-フルオレノン(9-Fluorenone,9F)のそれらと比較した.また,VL照射の影響を検討し,CQの光増感剤としての有用性について検討した.その結果(1)フリーラジカル産生能についてはCQは9Fより、3-25倍フリーラジカルを産生した.(2)相転移温度の変化については,controlの相転移温度は41℃であったが,CQにより40℃に,VL照射により,38,5℃にシフトした.また,9Fでは非照射で34℃にシフトし,9F照射時にはさらにブロードになり検出不能であった.(3)細胞障害性については、HPF細胞に対する細胞障害性についてCQは9Fの約1/4であった.VL照射を行うとCQにおいて6-8倍,9Fにおいて約10倍に増強された.(4)ROSの産生については,0.1mMのCQにおいてcontrolとの間に有意な差は認められなかった.一方、9Fはほぼ2倍のROSを産生した.以上のことからCQはフリーラジカルの産生が多く,逆に9Fは活性酸素の産生が多いことが明らかになった.さらにMOPACでVL照射時の軌道を測定すると,CQはn-π^*の禁制遷移軌道を,9Fはπ-π^*の許容遷移軌道をとることから,9FはROSを産生しやすいことが推定された.CQは重合に関与するフリーラジカルの産生をするが,9Fは逆にROS由来の細胞障害性が強く,VLの照射はこれらの性質を増強させた.これらの結果から,CQの光増感剤としての有用性が明らかになった.一方,食品添加物のcurcuminが強い光毒性をもち,光化学療法剤として使用可能であると考えられた.
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