研究概要 |
胎仔唾液腺は、branching morphogenesis(分枝形態形成)と呼ばれる発達過程にしたがって成長する。我々は、唾液腺の分枝形態形成を制御する因子としてEGFおよびインテグリンに着目し、両分子の機能解明を目的として実験を行っている。本年度実施された研究から以下のような結論を得た。 1)培養胎仔顎下腺にERK(古典的MAPK)の活性化を阻害するPD98059を添加した場合、分枝形成が抑制された。 2)培養胎仔顎下腺に、U73122(PLCγ1阻害剤)およびLY294002(PI3K阻害剤)を添加すると、U73122を添加した場合にのみ分枝形成の阻害が認められた。 3)胎仔顎下腺には少なくとも8種類のプロテインキナーゼC(PKC)が発現していることがわかった。 4)PKCの阻害剤であるCalphostin Cを培養胎仔顎下腺に添加すると分枝形成は促進した。 5)培養顎下腺にEGFを作用させるとPKCαの活性が上昇することがわかった。しかし、PKCεおよびPKCδは逆に活性が減少した。 6)胎仔顎下腺に発現しているEGF受容体ファミリー(ErbBファミリー)の検索を行った結果、ErbB1,ErbB2およびErbB4の発現が確認された。 以上の結果、EGFによる分枝形態形成促進作用は、上述したシグナル経路により伝達されていると考えられた。また、個々のEGF受容体ファミリーは異なったシグナル伝達経路を活性化させることが知られていることから、これらが複雑に関わりあうことで器官形成が制御されている可能性があると考えられた。今後、唾液腺分枝形態形成におけるEGF受容体ファミリーとEGFリガンドファミリーが活性化するシグナルを特定し、それぞれが関与する生物活性を明らかにしたいと考えている。
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