研究概要 |
昨年度までの研究の結果,S. mutansは細胞壁アンカータンパクとしてグルカン依存性凝集に関与するGbpCタンパクの他にも,低温凝集という現象に関与する新規のタンパクを発現していることが分かった.このタンパクのアミノ酸配列の相同性からコラーゲン結合タンパクである可能性が示唆された.そこで,このタンパクをコードする遺伝子を大腸菌に過剰発現させ,種々の細胞外マトリックスタンパクとの結合性を調べたところ,コラーゲンとラミニンに結合することが示された.またこの遺伝子を欠失したS. mutansの変異株を構築し同様に細胞外マトリックスタンパクとの結合性を親株と比較して調べたところ,親株ではコラーゲン,ラミニン,フィブロネクチンに結合性を示したが,欠失変異株ではコラーゲンとラミニンヘの結合性を欠失してフィブロネクチンにのみ結合性を示したので,この細胞壁アンカータンパクはラミニンにも結合性を持つコラーゲン結合タンパクと考えられた.そこでこれと最も相同性の高かった黄色ブドウ球菌の同タンパクに倣い,Cnmと名付けた.しかし,低温凝集性との関係は未だ不詳であり,今後の研究が必要である.現在までに,ゲノムプロジェクトで使用されたUA159株やGS-5株,ATCC10449株などのS. mutansの研究によく使用される代表的な菌株12株についてcnm遺伝子の存在とコラーゲン結合能との関連を調べたところ,V403株,LM7株,OMZ175株の3株でcnm遺伝子が検出され,これら全ては他の9株と比較して明らかに高いコラーゲン結合能を有していた.cnm遺伝子はS. mutansにおける細菌性心内膜炎の病原因子である可能性が示唆された.またsortase遺伝子を失活するとGbpC, Cnm両タンパクは細胞壁画分に検出されず培養上清に検出されることが示され,細胞壁にアンカーリングにSortase酵素が関与していることも示された.
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