昨年は発痛物質であるBradykininとATP投与により発生する疼痛に対する各種Caチャネル遮断薬の効果を検討し、神経に存在する電位依存性Caチャネルの鎮痛薬の作用点としての役割を検討した。その結果、Bradykininによる疼痛にはN型・L型Caチャネルが関与し、ATPによる疼痛はN型・P/Q型Caチャネルが関与することを見出した。これらのことから、鎮痛薬の作用点としてこれらCaチャネルを考えた場合、N型Caチャネルがより普遍的な可能性を持っていると考えられた。この考えの妥当性を検討するため、今年度は知覚過敏など異常感覚におけるCaチャネルの役割を検討した。材料として、ストレプトゾトシン注射による糖尿病ラットを作成し、糖尿病で起こる知覚過敏に対する効果を検討した。その結果、糖尿病性ラットで起こる知覚過敏は機械的刺激に対して認められたが、熱刺激に対しては知覚過敏が認められなかった。この機械的刺激に対する知覚過敏はP/Q型チャネル遮断薬で特異的に抑制されたが、N型およびL型チャネル遮断薬では効果が認められなかった。また、糖尿病ラットで見られた知覚過敏に対して代表的な鎮痛薬であるモルヒネでは特異的な抑制は認められなかった。特異的抗体を用いた組織免疫染色では糖尿病ラットで特異的にP/Q型Caチャネルが発現していることがわかった。以上の結果から、糖尿病ラットの知覚過敏は痛覚伝達神経でのP/Q型Caチャネルの発現亢進による神経伝達の亢進が原因であろうと考えられ、Caチャネルサブタイプの発現変化と痛覚異常の質的変化に関連があると想像される。
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