電位依存性Caチャネルの新しい鎮痛薬標的分子としての可能性を調べるために、種々の疼痛に対する電位依存性Caチャネル遮断薬の効果を検討した。圧刺激、熱刺激および化学物質によって誘発された疼痛に対する各種Caチャネル遮断薬(脊髄内投与)の効果を行動薬理学的手法により評価した。その結果、これらの疼痛に対してN型およびP/Q型Caチャネル遮断薬は有意な鎮痛作用を持つことがわかった。しかし、bradykininとATP誘発疼痛では関与するCaチャネルが異なり、疼痛刺激に対応して、異なる性質の神経が疼痛の伝達に関与することが示唆された。また、モルヒネの鎮痛効果が閾値以下の用量のCaチャネル遮断薬で増強された。STZやvincristineを投与すると圧刺激に対する閾値低下(知覚過敏)が見られたが、熱刺激に対する閾値低下は見られなかった。この閾値低下に対してモルヒネは効果がなかったが、P/Q型Caチャネル遮断薬とN型遮断薬は、それぞれの薬物による閾値低下を回復させた。一方、L型Caチャネル遮断薬は効果が小さく、脊髄後角部における疼痛伝達に対する関与が他の2種のCaチャネルに比べて弱いことが示された。以上の結果から、疼痛伝達において刺激特異的な電位依存性Caチャネルを介する経路が脊髄後角部に存在し、(1)モルヒネによる疼痛制御機構と独立して疼痛制御を行っており、両機構の抑制は鎮痛効果を相乗的に増加させること、(2)モルヒネでは閾値低下を改善できない知覚過敏に対してもある種のCaチャネル遮断薬は有効であることがわかった。今研究の結果は神経型電位依存性Caチャネルが知覚過敏などの神経因性痛覚に対する治療薬の効果的な標的分子となる可能性を示している。
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