研究課題
本年度は携帯型超音波装置を用いて食塊を口腔内に取り込み、その食塊を舌尖部にすくい上げる能力、そして食塊を口腔内で保持する能力、舌背を後方に傾斜させ、中咽頭に落とし込む舌の食塊輸送能力、喉頭蓋谷の貯留状態、梨状陥凹の貯留状態、食道入口部の開大状態、舌骨の挙上のタイミング、気道入口部に関して5名の嚥下障害を訴えない健常人について撮影を行い、その視認性について検討を行った。超音波装置は生体組織の断層面をとらえる装置であり、対象となる組織と超音波装置のプローブの間に骨等の硬組織が存在すると、その存在により目的とする対象物が確認困難となることがある。今回一連の生体組織の観察を行ったが、舌尖部、喉頭蓋谷、梨状陥凹、食道入口部、喉頭口は確認が困難であり、舌中央部から舌根部に及ぶ組織の形態ならびに嚥下中や発声時の動態を確認することができ、したがってこれらの評価に有用であると考えられた。舌中央部は食塊形成を行ううえで非常に重要な部位であり、また、舌根部は中咽頭圧を発生させるために、そして口腔相と咽頭相の境界部に存在するため、評価を行ううえで重要な部位であると考えられる。例えば液体を保持している間、即ち嚥下反射が惹起される前に咽頭内に流入してしまう早期咽頭流入は、喉頭蓋谷、梨状陥凹を通じて嚥下前誤嚥を引き起こす可能性がある。またその状態は食塊として一つにまとまっていない食塊形成不全を示していることでもあり、嚥下前誤嚥だけでなく、嚥下動態に対する様々な障害を引き起こす可能性があるかもしれない。したがって我々はこの早期咽頭流入を検出することを目的としてさらに食材や体位の変化に対する舌根部の視認性について検討を続ける予定である。