研究概要 |
目的:エナメルマトリックスタンパク(エムドゲイン,EMD)中のどのような分子が,C2C12細胞を骨芽細胞あるいは軟骨細胞に分化誘導させるのかを明らかにすること。また近年,歯周組織再建への応用が期待されている亜鉛製剤(β-alanyl-L-histidinato zinc, AHZ)の細胞分化に及ぼす影響を,ヒト歯根膜由来細胞(HPDL細胞)を用いて明らかにすること。 方法:C2C12細胞の骨芽細胞および軟骨細胞への分化は,転写因子Runx2/Cbfa1およびSOX9の発現を半定量的RT-PCRで調べることによって確認した。また,転写因子の発現を増加させるEMD中のリガンドおよび細胞内シグナル伝達因子Smad1のリン酸化は,Western blotで調べた。HPDL細胞の骨芽細胞および軟骨細胞への分化に及ぼすAHZの影響を調べる際には,亜鉛を含まないβ-alanyl-L-histidine (carnosine)の影響も併せて検討した。転写因子,リガンドとその受容体の発現は半定量的RT-PCRで調べ,Smad1のリン酸化はWestern blotで調べた。 結果:EMD中には骨誘導因子(BMP)様タンパクが含まれており,このタンパクがC2C12細胞のRunx2/Cbfa1およびSOX9発現を顕著に増加させ,Smad1のリン酸化も同時に促進させた。一方,これら転写因子の発現およびSmad1のリン酸化は,nogginによって抑制された。HPDL細胞のRunx2/Cbfa1発現はcarnosineよりもAHZによって,またSOX9発現はAHZよりもcarnosineによって顕著に増加した。AHZおよびcarnosineは,HPDL細胞のBMP-2,BMP-7およびそれらの受容体の発現を増加させ,Smad1のリン酸化も同時に促進させた。一方,転写因子の発現およびSmad1のリン酸化は,nogginによって抑制された。 結論:C2C12細胞を骨芽細胞あるいは軟骨細胞に分化誘導させるEMD中のリガンドは,BMP様タンパクであることが明らかになった。AHZおよびcarnosineは,HPDL細胞中の未分化間葉系細胞を骨芽細胞あるいは軟骨細胞に分化誘導させることが示唆された。また,それらの作用機序は,HPDL細胞自身が産生するBMP-2およびBMP-7を介するautocrine作用によって,Runx2/Cbfa1およびSOX9発現を増加させることが明らかになった。
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