研究概要 |
エムドゲイン(enamel matrix derivative:EMD)は、ヒト歯根膜由来(HPDL)細胞の歯根面への接着を促進することが知られているが、EMDに含まれるどのような成分が細胞接着を促進させるのかについては明らかにされていない。そこで、EMD中の細胞接着因子を明らかにするとともに、細胞側の受容体としてどのtypeのintegrinが接着因子との結合に関わっているのかを調べた。その結果、EMDを塗布した歯根面へのHPDL細胞の接着は、EMD中のbone sialoprotein様分子とintegrin αvβ3との相互作用によって促進されることが示唆された(J Periodontol 72,2001)。 EMDは、無細胞セメント質および歯槽骨再生を促すことが臨床的に報告されている。同様の所見は、in vitroにおいてもHPDL細胞の増殖、細胞外マトリックスタンパク合成および石灰化物形成を増加させることが報告されている。しかし、EMDが未分化間葉系細胞の分化にどのような影響を及ぼすのかについては明らかにされていない。そこで、多分化能を有するC2C12細胞を用いて、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞および脂肪細胞の分化マーカー遺伝子発現を指標にして、C2C12細胞の分化に及ぼすEMDの影響について調べた。その結果、C2C12細胞は、EMD添加によってdesmin、MyoDおよびlipoprotein lipase発現が抑制された。一方、骨型alkaline phosphatase、osteocalcinおよびtype X collagen発現は、EMD添加によって有意に上昇した。これらの結果から、EMDはC2C12細胞の筋芽細胞および脂肪細胞への分化を抑制し、骨芽細胞あるいは軟骨細胞への分化を促進させることが示唆された。また、この分化誘導には、EMD中の骨誘導因子(BMP)様タンパクが関与していることが示唆された(J Periodontol 73,2002)。 近年、β-alamineとL-histidineとのdipeptide(carnosine)に亜鉛が結合したβ-alanyl-L-hisitidinato zinc(AHZ)が、骨形成を促進させることが報告され、EMDとともに歯槽骨再建への応用が期待されている。そこで、HPDL細胞を用いて細胞分化に及ぼすAHZおよびcarnosineの影響を調べた。その結果、AHZはHPDL細胞中の未分化間葉系細胞を骨芽細胞に、carnosineは骨芽細胞あるいは軟骨細胞に分化誘導させることを認めた。また、その作用機序は、HPDL細胞自身が産生するBMP-2およびBMP-7を介するautocrine作用によって、転写因子RUNX2/CbfalあるいはSOX9の発現を増加させることを明らかにした。これらの結果から、AHZおよびcarnosine添加による未分化間葉系細胞の骨芽細胞あるいは軟骨細胞への分化には、リガンドとしてBMPが深く関与していること、またAHZはEMDと同様に歯槽骨再建促進剤として有用であることが示唆された(Dent Jpn 39,2003; Life Sciences 74,2004; J Periodont Res 39,2004)。
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