研究概要 |
本研究では,まず電顕用水溶性樹脂に包埋した齲蝕象牙質の微小範囲から細菌の16S rDNAを抽出し,その塩基配列を元に齲蝕に侵入した細菌の種を同定することを試みた。その結果,約300μm四方,厚さ1μmの微小切片から脱樹脂を行うことなく細菌の16S rDNAを抽出することに成功し、象牙質齲蝕病巣の最深部に棲息する細菌としてLactobacillus casei, Lactobacillus plantarumの他,従来の培養法による検索では報告が少ないStaphylococcus saprophyticus, Propionibacterium propionicusあるいはStreptococcus parvulusなどが同定され,象牙質齲蝕の細菌叢の検索における本手法の有効性が示された。また同時に,比較的拡張の少ない齲蝕深部の象牙細管でも,同一の細管内に2種以上の細菌が侵入している可能性が,TEM-in situ hybridizationにより判明した。 一方,深在性齲蝕を有する歯の炎症歯髄組織中の浸潤細胞におけるToll-like receptor family分子(TLR)の発現頻度を,組織から抽出したmRNAを元にRT-PCRにて検索した。その結果,TLR-2はほぼ全症例で発現しており,次いでTLR-4およびTLR-9の順で発現頻度が低くなる傾向を示したが,TLR-9についても約半数の症例で発現が確認された。今後は症例を増やし,齲蝕病巣深部に侵入する細菌と病巣に近接する炎症歯髄組織におけるこれら3分子の発現パターンの関連性を検索すると共に、発現する細胞の局在をin situ hybridization等により検討していく予定である。
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