本研究では、排膿の止まらない難治性根尖性歯周炎の病態を把握する目的で、血管内皮細胞による一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)合成能に関する病理組織学的、分子生物学的検討を行うことを計画した。また、NO合成阻害剤によるNO合成の抑制効果を比較検討することで、治療薬としての応用性を示唆するものと思われる。 本年度は、根管治療を行っても症状が消退せず、治療の経過が長い、いわゆる難治性根尖性歯周炎と診断された症例26例を被験試料とした。すなわち歯科治療の一環として、歯内外科療法である根尖切除術を行い、根尖部の病巣組織を摘出し、被験材料とした。試料を2分割したのちパラフィン切片と凍結切片を作製し、それぞれヘマトキシリンーエオジン重染色または免疫染色を行った。試料を病理組織学的に検索した結果、10例が歯根肉芽腫、16例が歯根嚢胞と診断された。双方とも、肉芽組織中には著明な炎症性細胞浸潤が認められた。 抗ヒトiNOS抗血清を作製し、免疫染色を行った結果、好中球にiNOS産生が認められた。また、血管内皮細胞にもiNOS産生が認められたが、その染色性は好中球に比較して強陽性を示した。次にiNOS産生とサイトカイン産生性および細胞接着因子との関係を検索する目的で、iNOSおよび抗ヒトインターロイキン1(IL-1)またはE-セレクチンモノクローナル抗体を用いた二重染色法を行った。その結果、好中球はiNOSまたはIL-1産生性を示し、iNOSおよびIL-1を産生しているものも認められた。また、血管内皮細胞はiNOSまたはIL-1、E-セレクチンの産生性を示したが、iNOSおよびIL-1、またはiNOSおよびE-セレクチン産生を示しているものも認められた。 申請者は既に好中球のiNOS産生にはIL-1などのサイトカインが関与することを明らかにし、報告した。以上のことから、IL-1のオートクラインまたはパラクライン作用が好中球および血管内皮細胞のiNOS産生に関与することが示唆された。また、血管内皮細胞は活性化しており、細胞接着因子を産生していることが明らかとなった。
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