研究概要 |
本研究の目的は,高齢無歯顎者における義歯装着状態の違いが摂食,嚥下機能に及ぼす影響を明らかにすることである.被験者には,無歯顎者,高齢有歯顎者,成人有歯顎者,偏食傾向の者の4群を選択し,5種類の半固形状食品および2mlの冷茶を摂食させた.無歯顎者には3種の義歯装着条件(上下顎義歯装着,下顎義歯撤去,上下顎義歯撤去)を設定し,顎二腹筋前腹筋電図,咬筋筋電図,下顎運動の測定を行った.統計処理には反復測定分散分析とscheffeの方法を用いた.以下に結果示す. 1.高齢正常有歯顎者と若年正常有歯顎者では,高齢正常有歯顎者の方が咀嚼所要時間は長かった. 2.高齢正常有歯顎者と全部床義歯装着者では,食品によっては,咀嚼所要時間には必ずしも有意差がみられなかった. 3.全部床義歯装着者と若年正常有歯顎者では,上下顎義歯撤去時ではすべての食品で若年正常有歯顎者より咀嚼所要時間は長かった.しかし,上下顎義歯装着時では,はんぺん,試験用ゼリー(強度650),芋ようかんで有意差はみられなかった. 4.義歯の装着状況で比較すると,上下顎義歯装着時と上下顎義歯撤去時では,上下顎義歯撤去時の咀嚼所要時間が短かった. 5.下顎義歯撤去時と上下顎義歯撤去時では,下顎義歯撤去時の咀嚼所要時間が短かった. 6.ゼリー,芋ようかん以外では,上下顎義歯装着時と下顎義歯撤去時の咀嚼所要時間に差はみられなかった. 7.口腔内条件の違いよりも,食品の好き嫌いが咀嚼所要時間に最も大きく影響を与えた. 以上の結果から,高齢者における全部床義歯の装着は,半固形状食品の円滑な咀嚼の遂行,維持に重要であることが示唆された.
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