研究概要 |
正常被験者に規格化されたストレス刺激(cold pressor刺激,CP刺激)を付加し,交感神経系反応動態の変化を確認する目的で心拍数ならびに血圧の変動を測定した.またCP刺激を付加した際の血液中のコルチゾル,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)および内因性オピオイドの一つであるβエンドルフィンの濃度変化を測定し,CP刺激がこれらのHPA系関連のホルモン濃度変化に影響を及ぼすかどうか検討した.同時に三叉神経領域におけるストレス付加時の疼痛閾値の変動について検討した. [方法] 1.被検者の右側上腕部に2分間のCP刺激を付加し,刺激直前,直後,5,15,30,45,60分後に血液を採取し,血漿を分離した.採取した血漿中のコルチゾル,ACTH, CRF,βエンドルフィンについてラジオイムノアッセイ法を用いて濃度を測定した.同じ実験系で心拍数,血圧も連続的に記録した. 2.同様の実験系でMedoc社製温度痛覚閾値測定装置TSA-2001を用い,温熱刺激による疼痛閾値を計測した.計測部位は三叉神経領域の左側外耳道前方10mmの顔面皮膚とした. [結果] 1.心拍数,血圧ともにCP刺激の影響を有意に受けており刺激中に最も高い値を示した(p<0.0001). 2.ACTHはCP刺激5分後に濃度が最大となった.コルチゾルは刺激30分後に濃度が最大となった.βエンドルフィンは刺激直後に濃度が最大となった.これらは有意にCP刺激の影響を受けていた(p<0.0001).一方でCRFは有意な濃度変化がみられなかった. 3.三叉神経領域での疼痛閾値は刺激直後から30分後にかけて上昇する傾向にあったもの,統計的な有意差は認められなかった. 心拍数や血圧の変動が示すとおり,CP刺激により交感神経系ではより急速な応答が営まれていることが確認できた.一方HPA系では,急性ストレスであるCP刺激に対して交感神経系よりも緩やかな反応を示し、非常に長時間にわたってその影響が持続することから,本実験で用いたCP刺激はHPA系反応動態を測る上で有効な手段であることが明らかとなった.また,実験的なストレス刺激により三叉神経領域での疼痛閾値が上昇する傾向にあったことから,精神的,肉体的なストレスは,交感神経系や体液性のストレス反応を介して三叉神経系の疼痛閾値を変化させうることが示唆された.
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