研究概要 |
高齢社会となった日本やその他の国では,痴呆高齢者への対応が大きな問題となっている。本研究では,痴呆高齢者を対象として,痴呆の程度,全身の健康状態,生活環境と口腔内状態との関係を検討するために,縦断調査を行った。 調査対象施設は,単科精神病院の痴呆病棟とグループホームである。痴呆病棟の入所者は重度の痴呆高齢者が多く,グループホームの入所者は痴呆の程度が軽度であった。口腔内状態を評価するために,口腔ADLとアイヒナー分類を用いた。日常生活動作能力の評価にはN式ADLを,痴呆の評価には改訂長谷川式簡易知能評価スケールとNMスケールを用いた。 両施設の入所者とも,自分の臼歯で咬合を支持している対象者は少なかった。アイヒナー分類ではC群の対象者が多かった。C群を義歯装着必要者と考えて,義歯装着の有無で痴呆の程度,日常生活動作能力などを検討した。その結果,義歯装着者は痴呆が軽度のものが多かったが,重度の痴呆高齢者が必ずしも義歯を装着できないことはなかった。現在までの歯科治療の経験,義歯装着の経験などが影響していることが伺われた。また,義歯装着により,日常の生活動作や精神面の維持に好影響を及ぼす可能性が示唆された。 広義のオーラルヘルスケアが,痴呆高齢者の痴呆の程度や心身の全身状態と関係していることが伺われたが,対象者数を増やしたり,詳細な状態の検討や長期にわたる調査研究がさらに必要である。
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