総義歯あるいは部分床義歯の難症例が高齢社会の到来にともない増加している。このような難症例患者の治療には、ティッシュコンディショナーにより床下粘膜に生じた病変や歪を正常な状態に回復させ、動的印象後、軟質義歯裏装材によりリライニングする術式が非常に効果的である。アクリル系軟質裏装材はシリコーン系軟質裏装材よりも咀嚼力に対する緩圧効果が高いという長所を有するが、近年環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)が社会的に大きな問題となっており、市販製品の液成分の可塑剤として多用されているフタル酸エステルも環境ホルモンであると指摘されている。そこで本研究では、各種エステル、各種ポリマー、各種モノマー、重合開始剤および抗菌剤と本材の成分の溶出ならびに粘弾性的性質との関係を明らかにし、抗菌性を有し、高い緩圧効果をもち、長期間使用可能とするため、ブチル系およびエチル系ポリマーを用いかつ可塑剤として安全性の高い脂肪族エステルを用いた各種機能性軟質義歯裏装材を開発することを目的とする。 平成13年度はまず、化学組成および構造的因子の異なる軟質義歯裏装材の動的粘弾性を計測し、これら粘弾性的性質が咀嚼機能に及ぼす影響について検討した。その結果、弾性的な軟質義歯裏装材よりも粘弾性的な軟質義歯裏装材のほうが、咀嚼機能を向上させる傾向があることが解明された。この研究成果はJournal of Dental Researchに掲載された。また暫間軟質義歯裏装材の寸法変化と、吸水量、溶解量との関係についても実験を行い、成果はJournal of Oral Rehabilitationに掲載された。 平成14年度には脂肪族エステルとアクリル系弾性裏装材の粘弾性的性質および床用レジンとの接着性についての実験を終了し、その一部は第108回日本補綴歯科学会において発表した。 また第81回国際歯科研究学会(IADR)においても研究の一部を発表する予定で、誌上発表については、現在投稿準備中である。
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