研究概要 |
金銀パラジウム合金は,歯冠修復用材料として歯科医療に重要な役割を果たしているが,患者によってはパラジウムに対して過敏症を示す例もあることが報告されている。本研究では,従来の金銀パラジウム合金に代わる,パラジウムを全く含有しない新しい歯科用貴金属合金を開発し,歯科材料の安全性の更なる向上と歯科医療の高度先進化に貢献することを目的とした。 今年度は,新しいパラジウム無添加合金としてPt濃度を10at.%に固定した6種類のAg-Au-Pt-Cu系合金を設計し,試料合金を作製するとともに,示差走査熱量測定により液相点(T_L)と固相点(T_S)を測定した。その結果,6種類の合金中,Auを15at.%含有する合金において,T_LとT_Sがともに最も低く,T_L=983℃,T_S=934℃であった。溶融温度区間(T_L-T_S)も本合金が最も狭くなっており,偏析の程度が最小となることが示唆された。この点は,鋳造用合金として優れた特性である。他方,溶融温度が最も高い値を示したのはAuを30at.%含有する合金であり,T_L=1047℃,T_S=980℃であった。しかし,この合金のT_LおよびT_Sは,ともに従来の金銀パラジウム合金の溶融温度と同程度であることから,本研究で試作した6種類の合金は,いずれも簡便なブローパイプを用いた熱源で容易に融解することが可能と考えられる。 各試料合金の色調を目視により検討したところ,全体的には銀白色系統を基調としているが,金含有量の増加に伴って微妙に黄金色味が感じられるように変化した。今後,分光測色計を用いて合金の光学的性質に及ぼす組成の影響を定量的に評価するとともに,各種の試験液中にける耐変色性を同様に数値評価する予定である。さらに,熱処理による硬化特性を調べて,従来の金銀パラジウム合金に代わる新しいパラジウム無添加貴金属合金の創製に結び付けたい。
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