研究概要 |
本研究では,分子の環構造上に重合反応性の二重結合を有する多環系モノマーを単独,もしくはMMAと共重合させ,これにより得られるレジンの義歯床用材料としての可能性を検討した.本研究により得られる高分子の特徴は,環構造上の二重結合を重合反応に用いることにより,ポリマーの主鎖に環状構造が組み込まれ,ポリマーの主鎖の運動が束縛され,従来の義歯床用材料よりも高い靭性を有する硬いレジンが得られると期待される.本研究では次の結果を得た. インドールのように,ベンゼン環に五員環が結合した構造をとる多環系モノマーはMMAに対して高い溶解性を示す.高い溶解性を示すモノマーでも,側鎖に-OH基,-COOH基,-OCH_3基,-NH_2基,-SH基のような親水性の基を有する多環系モノマーは,MMAに対し不溶性を示す.インデン,インダゾール,マレイミドのように,環構造内に電子の分布が不均一な二重結合を有する多環系モノマーはMMAに対して共重合する性質を示すことが分かった.MMAと多環系モノマーの混合物より加熱重合法で得られた重合体の重合収縮率(体収縮)および機械的強度から,義歯床用材料としての物性を検討した.MMAに対して溶解性および共重合性を示す多環系モノマーを添加したアクリルレジンは,いずれも重合収縮が有意に減少するのが認められた.機械強度については,ほとんどの多環系モノマーの添加においてアクリルレジンの物性は低下したが,インドール-3-カルボン酸メチルおよびマレイミドをMMAにそれぞれ4wt%および10wt%添加して得られた共重合体の機械的強度は有意に向上した.MMAにマレイミドを10wt%添加したアクリルレジンの圧縮強さは有意に向上した.マレイミドの環状構造がポリマー分子中に導入されたことに起因する立体障害によりアクリルレジンの機械強度が向上したと考えられる.
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