研究概要 |
一日に1,000回にも及ぶ嚥下運動は神経筋機構と中枢メカニズムによりコントロールされているが,食物の気道への迷入を防ぐには,随意的運動である口腔期から反射的にパターン運動である咽頭期への移行が円滑に行わなければならない.近年,義歯床の厚み,大きさなどの口腔内環境の変化が嚥下機能に及ぼす影響についても報告されるようになり,口腔内環境を改善する歯科医が嚥下機能に精通することは重要な事項である.しかし,嚥下機能の観察にはVFなどの大型装置が必要で,どこの診療室でも簡便に比較検討ないので,簡便にチェアーサイドで,被験者に対して為害作用がない方法で嚥下機能を検討する事は重要である.そこで誤嚥の発生率が若年者に比して高い高齢者を対象に,口腔内環境の変化として義歯装着の有無に注目して,嚥下機能と呼吸運動に与える影響について実験を行なった. 実験方法 被験者は上下顎総義歯を装着した,顎口腔系及び呼吸器系に問題がない高齢者である.嚥下運動を検討するために,唾液を嚥下した時の筋活動と呼吸運動とを同時に測定した.筋活動は側頭筋前腹と舌骨上筋群の測定にオトガイ骨と舌骨の中間に表面電極を貼付した。表面筋電図は双極電極で,電極間距離は20mmとした.また,呼吸運動はサーミスタ呼吸ピックアップを鼻孔から2〜3mm離れた位置に固定後,呼気・吸気の変化を同時記録した. 実験結果 上下顎無歯顎者が上下顎の義歯を装着した場合における,安静時の呼吸周期は平均3.17secで,嚥下性随伴呼吸周期は平均4.64secであった.義歯未装着時の嚥下性随伴呼吸周期は平均5.37secとなり,義歯装着時に比べて約0.73secの延長傾向が認められた. 高齢者の義歯装着の有無は,嚥下運動時の嚥下随伴呼吸周期に影響を与えることが示唆された.しかし,嚥下運動には多くの要因が複雑に関与しているために,今年度はさらに症例数を増やし,詳細な検討をする予定である.
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