本研究は銅量を共晶域まで増大して、強度が大きく伸びのある金合金に優るとも劣らない靭性を有した新合金創製を目的としている。昨年度は生体用合金として最も重要な化学的性質と機械的性質、特に人工唾液および3%NaCl水溶液中で疲労強度の検討を行った。その結果、人工唾液および3%NaCl水溶液では合金組成中にβ相が存在すると疲労特性が低下することを報告し、このβ相の体積率を抑制することによって、疲労強度の低下を抑制できることが判明した。本年度は昨年度に引き続き新合金開発の基礎的知見を得るため12%金-20%パラジウム-銀合金鋳造材の大気中の疲労試験を行い、鋳造材の組織と疲労特性との関係から鋳造欠陥と疲労破壊メカニズムについて検討した。 1.鋳造材の疲労強度は1073K空冷の加工材に比較して低サイクル疲労寿命領域および高サイクル疲労寿命領域ともに著しく低くなる傾向を示した。しかし、高サイクル疲労寿命領域では1123WQ鋳造体が最も大きい疲労強度を示した。これは合金組織中のシュリンゲージの影響を受けにくいことを示唆している。 2.鋳造材では負荷応力の高い低サイクル疲労寿命領域ではシュリンゲージの体積率が高い程疲労強度が低下するが、負荷応力の低い高サイクル疲労寿命領域ではシュリンゲージの影響を受けにくい。これは亀裂の伝播にシュリンゲージを無視して行っていることと推察できる。 上記のことから、鋳造材に1123Kとの溶体化処理を施すことによって、本合金鋳造体の疲労強度に及ぼす鋳造欠陥の影響を小さくすることができ、疲労強度を向上させることが可能となる。 本研究の基礎的研究と平行して昨年度よりAg-Ti2元合金の溶製を試みている。
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