歯科鋳造用コバルトクロム合金のパルスレーザ溶接部に発生する割れやポロシティなどの欠陥の原因を解明することを目的として研究を行った。 実験材料には市販のコバルトクロム合金(コパルタン、松風社)、この合金をリン酸塩系埋没材(スノーホワイト、松風社)で鋳造した鋳造体および試作Co-Cr-Mo三元合金(Co:65wt%、Cr:30、Mo:5)を用いた。 市販インゴットおよび鋳造体には割れが発生したが、試作三元合金には発生しなかった。加熱用顕微鏡を用いて鋳造体の加熱時の溶融挙動を観察したところ、1130℃付近で粒界から溶融が開始した。溶融は粒界全体から始まるのではなく、粒界の一部から島状に孤立して開始した。また、マトリックスは1400℃においても溶融しなかった。しかしながら、顕微鏡用加熱装置での溶融開始時期の確実な判定は現在までの観察では非常に困難であり、今後観察数を増やし、より正確な判定を行えるようにする必要があると思われた。電子線マイクロアナライザーにて元素分布を観察すると、試作三元合金の粒界ではCrおよびMoだけが偏析していたが、市販インゴットおよび鋳造体では、Si、CおよびPの偏析も認められた。特に、鋳造体では粒界の一部でPの偏析が顕著に認められた。状態図から勘案すると、加熱時に最初に溶融するのはPの偏析がある部分と考えられる。また、化学分析の結果、鋳造体のPの含有量は0.039wt%で市販合金の3倍であった。さらに、市販インゴットおよびと鋳造体の溶接部破面には典型的な凝固割れ破面が認められ、介在物としてSiの酸化物が多く認められた。 以上の結果から、コバルトクロム合金のレーザ溶接部に発生する割れにはPやSiが深く関わっているものと推察される。
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