研究概要 |
歯科用ティッシュコンディショナー(TC)には可塑剤成分としてさまざまなフタル酸エステルが含まれる.これらのフタル酸エステル類は口腔内で徐々に溶出するが,これまでの研究から溶出は持続的に継続することが明らかとなっている.フタル酸エステルにはいわゆる環境ホルモン作用があるとされており,この意味からも溶出動態や実際の摂取量の予測が必要不可欠である.本研究では,ヒトの唾液中に浸漬したTCから溶出するフタル酸エステルを高速液体クロマトグラフィーを用いて経時的に定量し,口腔内での溶出量ならびに体内への摂取量の評価を行った.また比較対照用として同量の蒸留水中でも溶出試験を行い,唾液中での特異的な溶出動態についての比較が可能となるような実験デザインを考案した.その結果,比較対照の蒸留水中では浸漬時間とともに溶出量は増加するが,唾液中では浸漬時間が長くなると溶出量の減少傾向が認められた.これは唾液中の加水分解酵素群によってフタル酸エステルが分解したことを示唆しており,浸漬中に分解産物であるモノエステルが観察された.現在,このモノエステルの溶出挙動やエストロゲン様活性について検討中である.また,フタル酸エステル類の溶出動態はその化学構造に大きく影響を受けることが明らかとなった.このため,上述の溶出試験と平行して,ヒト唾液中に既知濃度のフタル酸エステル類を添加し,擬似体温環境下でインキュベートしながら,フタル酸エステルとモノエステルの濃度変化をモニターすることによって,口腔内に溶出したフタル酸エステルの安定性を検討しているが,これまでの結果を総合すると溶出したエステルはほぼ1日でかなりの量が分解されることがわかった.この試験系についても現在実験を継続中である.
|