本研究は、誤嚥の発生に対して、嚥下の前段階である咀嚼運動がいかなる影響を及ぼしているのかを検討する目的で、吸啜咀嚼運動時の軟口蓋筋の活動ならびに咀嚼時の姿勢が咀嚼能率に及ぼす影響について検討した研究であり、以下の結果を得た。 吸啜運動においては口蓋舌筋ならびに口蓋帆挙筋が筋活動を示し、結果として軟口蓋が口腔内陰圧に抵抗する活動を示す。咀嚼物が口腔内に位置する際には口蓋舌筋は、咀嚼リズムに一致した活動を示し、咀嚼物を臼歯歯列に位置させる、外舌筋としての性格を示したが、水分を含む食物や、仰臥位においては、同筋は軟口蓋筋としての性格を優先させ、軟口蓋と舌の緊密な接触に寄与していることが示された。 また、姿勢による咀嚼能率の変化を研究する目的で咀嚼能率判定用グミゼリーを用いた研究では、起座位における咀嚼に比較して、仰臥位においてその能率は減少していることが確認された。咀嚼筋の活動自体は、姿勢によって大きく異なることはないことが確認されたことから、仰臥位では軟口蓋との緊密な接触に目的に重きを置く口蓋舌筋の持続的活動により、舌根部の運動が咀嚼物の歯列への運搬には寄与することは少なくなり、そのため効率的な咀嚼が障害されたものと考えられた。したがって、咀嚼運動時の軟口蓋筋の活動は、円滑な咀嚼運動ならびに引き続く嚥下運動において、重要な役割を担っており、臥床時などでは、軟口蓋活動に制限を生じるため、結果として誤嚥を発生しやすい環境を形成するものと考えられた。
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