研究概要 |
口腔領域は周囲を骨に囲まれているという解剖学的特徴を持つことより口腔領域悪性腫瘍の顎骨への浸潤・骨破壊はしばしば認められ,患者の予後を左右する負の要因となっている。申請者は癌の骨への浸潤増殖は破骨細胞性骨吸収に引き続いて起こることに着目し,破骨細胞性骨吸収を標的とした治療法の検討を進めてきた.結合組織成長因子(CTGF)は,内軟骨性骨化の重要な促進因子であると共に血管内皮細胞に対しても増殖,遊走および管腔形成を促進する.癌の骨破壊に対してCTGFを分子標的にした治療の可能性を明らかにするために以下の検討を行った. 癌の骨破壊における骨微小環境下でのCTGFの調節機構として,骨破壊により骨基質から骨微小環境下へ遊離するTGF-βの影響について検討した.乳癌細胞株MDA-231はTGF-βにより癌の骨破壊に重要なPTHrP産生が促進されるが,CTGFにおいてもTGF-βにより産生が促進されることをNorthern Blotで明らかにした.また,CTGF-アンチセンスオリゴヌクレオチドは破骨細胞形成を抑止する結果から,CTGFは破骨細胞性骨吸収に重要な役割を果たすと示唆されるが,癌細胞によるCTGF産生→破骨細胞性骨吸収→骨基質から骨微小環境へTGF-βの遊離→癌細胞のTGF-βによるCTGF産生促進→骨吸収の促進という負の連鎖にCTGFが重要な役割を果たし,CTGFを分子標的とした癌の骨破壊制御の可能性が示唆された.しかし,CTGF遺伝子発現ベクターをCHO細胞に遺伝子導入し,CTGF高発現細胞株(CHO-CTGF)を樹立し,この細胞をヌードマウスの背部皮下に移植し継時的に腫瘍の大きさ並びに血清カルシウム値を測定した.その結果,CHO-CTGF細胞移植群では,高カルシウム血症を示さなかったが,移植腫瘍は対照群と比べ増殖傾向を認めた.これはCTGFの血管新生促進作用による可能性が考えられ,腫瘍増殖に対してもCTGFを標的とした癌治療法の可能性が示唆された.
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