研究概要 |
全身麻酔薬は,中枢神経系のGABA神経などの抑制性神経を促進することが知られている.しかし,選択的なGABA神経の促進が全身麻酔作用を生じるかは分かっていない。本研究では,行動薬理学的手法や脳マイクロダイアリシス法を用い,脳内内因性GABAの増加が麻酔作用を生じるか,もし麻酔作用を生じるとすればそのときの脳内GABA濃度はどれくらいかについて検討した.実験動物としてマウスを用い,全身麻酔作用はマウスの正向反射消失の有無により調べた.まず,GABA分解酵素阻害薬であるgabaculineをマウスの腹腔内に投与し脳内GABA濃度を増加させ,これがマウスの正向反射を消失させるか確認した.その結果,gabaculine(35-200mg/kg)は用量依存性にマウスの正向反射を消失させた.そのときのgabaculineの50%有効量(95%信頼限界)は,100(75-134)mg/kgであった.Gabaculineは投与後数時間で正向反射を障害し始め,正向反射消失のピークは16時間後であった.脳マイクロダイアリシス法を用い,gabaculine(100mg/kg)投与後の脳内GABA濃度を測定したところ,脳内GABA濃度は正向反射消失作用の時間経過にほぼ一致して増加した.ピーク時の脳内GABA濃度はgabaculine投与前の約8倍に増加した.以上の結果より,脳内GABA濃度が生理的濃度の約8倍以上に増加すると,マウスの正向反射が消失することが分かった.更に,選択的なGABA神経の促進が正向反射消失作用以外に,鎮痛作用,筋弛緩作用なども引き起こすかについて現在研究を進めているところである.
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